第65回日本公衆衛生学会の話題から


第65回日本公衆衛生学会メインシンポジウム「安全・安心な社会と公衆衛生」(座長=第一福祉大・西三郎氏,NPO法人つむぎ・飯田恭子氏)では,西氏が「公衆衛生の分野に留まらず広い視点からどのような社会的サポートを行っていくか。本シンポジウムならびにサテライトシンポジウム合わせて,いかに健康で幸せな社会の推進に貢献するかを議論したい」とシンポジウムの論点を語った。

 はじめに社会学の立場から橘木俊詔氏(京大)が登壇。以前の日本社会は「一億総中流」,貧富の格差が小さい社会であったが,数年前より格差が広がっていることを報告。そして現在進められている社会保険制度改革について,「少子高齢化が進む中,ある程度やむを得ない側面もあるが,年金・医療・介護すべてにおいて負担増加と給付削減がなされている。これは現在進行している貧富の格差が広がることで,国民の健康,医療の格差が広がる可能性を秘めている」と,安心を確保できるのは経済的に豊かな人だけにつながりかねないと指摘した。

 ソーシャル・キャピタル(Social Capital:SC)と市民活動のかかわりについて東一洋氏(株式会社日本総合研究所)が口演。SCには,人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を改善できる,「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会的仕組みの特徴が挙げられる。

 市民活動を活性化していくことで地域のSCを養成し,コミュニティの改善へと繋げていく循環として,Plan(活動計画),Do(問題の緩和・課題の解決),See(新しい課題の発見)のプロセスモデルを提示。そして地域の信頼やネットワークの再生産を促進するためには,地域同士が連携・刺激し合う橋渡し型SCの養成が求められていると述べた。

 中島紀恵子氏(新潟県立看護大)は,自助・共助・公助の役割について,今までは市民活動と行政活動がつながりあうことがなく,参加者の意見を最大限に生かすことができなかった面があった。これからは,ともに心意気を伝え合う「市民活動」,目的と成果を共有する「行政活動」の両方が必要であり,つながっていくことが求められていると語った。

 堀口逸子氏(順大)は「安全」とは人とその共同体への損傷など損害がない状態のことであり,客観的に判断されるものである。一方「安心」は,個人の知識・経験に基づいた予測していないことは起きないと信じている状態のことであり,個人の主観的な判断に依存していると説明。そして「安全・安心な社会」の概念として,リスクを極小化し,顕在化したリスクに対して持ちこたえられる社会,信頼により安全を人々の安心へと繋げられる社会を提示した。

 また,安全・安心を脅かす要因として,犯罪,事故,自然災害,健康問題,経済問題,などを挙げ,「経済問題については,途上国における貧困など,国際保健へ話を進めてしまう傾向があるが,格差の大きさで捉えると,先進国の中で米国に次いで下から2番目に日本も位置することから,立派なフィールドとなり得る」と国内に目を向けた研究が必要と言及した。

週刊医学界新聞 - 2006/11/20