太ったインディアンの警告エリコ・ロウ氏



「アメリカ・インディアンは本来、スリムで屈強な民族です。それが30年ほど前から太りだし、今や569族250万人のうち約40%がBMI値30以上の肥満、中にはアリゾナのピマ族のように人口の7割以上が肥満の自治区もあるほどです。民族別の糖尿病発症率ではアメリカ・インディアンは世界中の民族の中のトップ。彼らが肥満や糖尿病に陥ったのは食の変化が大きな要因ですが、遺伝子的には彼らと親戚民族であり、生活スタイルも欧米化している日本人には他人事ではありません」
 アメリカ・インディアンに15年近く関わり、取材を続けてきた著者が警鐘を鳴らしている。自給自足の暮らしを続けていたインディアンが、欧米型の食生活やライフスタイルに変わっていった過程を、自治区内外の歴史背景やアメリカの社会政策と合わせて解説。今や世界中を太らせ病ませるアメリカ式食生活の脅威とその危険性を指摘する。
「現在、アメリカで肥満・糖尿病の元凶のひとつとして新たに問題になっているのがトランス脂肪酸です。トランス脂肪酸とは半硬化油のことで食品加工には便利ですが、体に摂取されると肝臓に負担をかけ、上半身腹部の肥満、他にも心臓病や脳卒中、痴呆症の原因との報告が。日本ではマーガリンやショートニングが含有食品として知られていますが、アメリカの場合、ファストフードやクッキー類などあらゆる加工品に使われているのが現状です。インディアンや日本人は上半身肥満になりやすいリンゴ型肥満の体質ですから、下半身肥満型の欧米人に比べ、トランス脂肪酸の害はより大きいと言えます」
 ここ数年、インディアンやアメリカ人の肥満は増加、横綱級の体躯を持つ人も珍しくないが、数年に一度しか帰国しない著者には以前に比べ日本人は太り、また食べる量も増えて見えるという。
「日本人がよく食べるようになったのは人間関係の希薄さやそれに伴うストレスと関係があるのかも知れませんね。今、インディアン社会では伝統食回帰ブームで、実際、健康が回復したという臨床実験例が数多く報告されています。人の健康は社会や国の政策と密接。コマーシャルや流行に左右されることなく、食に対する知識を高めていってほしいですね」
(NHK出版 740円)

日刊ゲンダイ - 2006/12/18