映画監督・山下敦弘 『正しい保健体育』みうらじゅん著


僕は小さいころから“画”に興味のある人間だったので、映画やテレビ、マンガからの影響は大いに受けたが、“活字”が自分に何かしら響いた経験があまりない。漢字が苦手なことと、間違った先入観で小説に“堅い”イメージがあったからだ。

 そんな自分が最近、活字なのに、すんなりと本を手に取ってしまう作家がいる。それがみうらじゅんさんである。

 『正しい保健体育』という本は長期ロケの帰りに新幹線の中で一気に読んでしまった。隣に知らない乗客がいるにもかかわらず、僕は声を出して笑ってしまい、約1カ月の撮影の間、自分があまり笑っていなかったことに気付かされた。

 この本はタイトルが示す通り、思春期においての“性”や“健康”“異性”について、実際の教科書の形に沿って書かれている。スーツを着た人たちが作った本物の教科書と違うところは、書いたみうらさんの目線が童貞だったころの自分に限りなく近かった、というところ。以前にみうらさんと伊集院光さんが作った『D・T・』という本は“童貞”について熱く語ったが、今回の本を読んでみて確信したことは、“いくら男が年を重ねても童貞のころの「男子」という部分はあまり変わらないんじゃないか?”ということ。すべての男がそうとは限らないが、何かの表現を仕事としている人には当てはまるのではないか。

 みうらさんが書く(語る?)文章は、学生時代にジャージを着たまま体育館裏に集まって聴いていた先輩のエロ話に似ている。そういう時は大概その先輩の勝手な解釈や妄想で間違った情報が多いのだが、とにかく楽しかったような気がする。そのときの感覚が自分のルーツのような気がして、この先も何かにつまずきそうな時、またみうらさんの本を開くに違いないと思っている。(理論社・1260円)

産経新聞 - 2006/12/3