健康保険法で未払い治療費、保険者に返還請求へ 病院団体

 治療費を支払わない患者が増え、病院経営が深刻化しているとして、全国の6割以上の病院が加入する四病院団体協議会(四病協、東京)は、未払い患者が加入する国民健康保険などの保険者に肩代わりを求める方針を固めた。各病院ごとの請求をへたうえで、来春にも全国一斉の「返還請求」に踏み切る可能性もある。把握できた病院側の未収金は、04年度までの3年間で計426億円。四病協は、患者の負担増やモラル低下などが原因と分析し、国にも解決策を求める。

 医師法は、患者に治療費の支払い能力がないことなどを理由に、医療機関が診療拒否することを禁じている。このため多くの病院は、未収金問題に打つ手がなかった。

 四病協によると、バブル後の不況下で生活困窮者が増えたうえ、高齢者の1割負担やサラリーマンの3割負担など、医療費の自己負担増が続いたことが不払いに拍車をかけた。診療報酬改定などで病院経営も厳しさを増しており、未収金問題への取り組みを強化せざるをえなくなってきた。

 四病協が今年8月にまとめた実態調査では、加盟5570病院のうち、回答した3272病院の94%が未収金を抱えていた。02?04年度に続けて調査できた病院の累計は約426億円。1病院あたり1620万円で、公的病院は4424万円と著しく多かった。

 患者別では、国民健康保険の滞納者や産科の入院・外来患者、交通事故などで救急医療を受けた患者で未払い額が多い傾向があった。

 国民健康保険法と健康保険法は「医療機関が相当の徴収努力をしたにもかかわらず、患者から支払いを受けられない場合は、保険者が医療機関の請求に基づいて患者から徴収できる」などと規定している。これを根拠に四病協は「保険者に支払いを請求できる」と解釈。患者からの徴収は、企業の健康保険組合や国保の保険者である市町村などが担うよう求める。保険者が支払いに応じなければ訴訟も辞さない構えだ。

 一方、厚生労働省は「診療行為は、医療機関と患者の契約」(保険課)との立場。保険者が未払い患者から徴収することは可能だが、徴収できなくても肩代わりする義務はないとの見解だ。病院には、クレジットカードが使えるようにするなど、不払いを防ぐ自助努力を求めている。

 四病協の山崎学・日本精神科病院協会副会長は「国民のために診療義務を果たした病院が、巨額の未収金を背負うのは道理に合わない」と強調。支払い能力があるのに治療費を何度も踏み倒す確信犯や、患者を入院させて行方不明になる家族など、モラル低下に伴う悪質な例も少なくないとして、病院が治療費を徴収するガイドラインの作成なども国に求める。

朝日新聞 - 2006/12/7