職は食から まず歯から ホームレスに無料検診 「治療する意識を持って」 福岡の2医師

就労の前提は健康な体であり、それを支える食には丈夫な歯が欠かせない−。住居や仕事がなく路上で生活するホームレスの歯を、無料検診する活動に取り組む2人の歯科医が福岡市にいる。肉体労働に就くことも多いホームレスには高齢化すると歯や歯茎がぼろぼろになる人もいる。歯の検診・治療はホームレスの自立支援でも「置き去り」の分野。無料検診は大阪市でも支援策の1つとして実施されている。福岡市の2人の取り組みも注目されそうだ。 (地域報道センター・河野賢治)

2人は、同市城南区の寺田壮平さん(44)と、同市中央区の西本美恵子さん(56)。昨年10月から無料検診をしている。

 きっかけは、同市中心に活動するホームレス支援団体、特定非営利活動法人(NPO法人)「福岡すまいの会」。「歯痛に悩んでいるホームレスが多い」と、歯科医らでつくる同市のNPO法人「Well−Being」に無料検診を依頼し、同法人に所属する寺田さんらが手を挙げた。

 検診の場所は同市博多区にある「福岡すまいの会」事務所。月1回、寺田さんらが治療の必要な個所などをカルテに記入し、医療機関への紹介状をつくる。受診者はそれをもとに歯科医で診療を受ける。

 当初は受診者がいない月もあったが、12月と1月はそれぞれ5人が訪れた。歯周病を防ぐための歯磨きの方法なども助言している。

 課題は「検診後の治療の見通しが立たないこと」(寺田さん)。生活保護法の規定で、住居のない生活困窮者に公的な医療費扶助があるのは初回受診時のみ。入院の必要がない場合、2回目以降は自己負担になる。

 収入の少ないホームレスが自己負担で通院するのは難しく、一度でできる範囲の治療を施すしかないのが現状という。

 また、一般の歯科医の側にも、ほかの患者への配慮からホームレスの診療そのものを断るケースがある。寺田さんは「マンションの1室でもいいから、ホームレスを検診したり、簡単な治療ができたりする場があれば、支援の輪を広げやすい。入れ歯を作るなど高額な治療でなければ、ボランティアに参加する歯科医も増えるはず」と言う。路上生活が約1年という男性(67)は昨年12月に無料検診を受け、寺田さんの医院で初診治療を受けた。「歯医者に行っても(医療保険の)保険証があるころと対応が全然違う。寺田さんは虫歯を見つけて、医院の中にも入れてくれた。ありがたい」と感謝している。

 「福岡すまいの会」は3月、歯科医約10人を招いて同市博多区で大規模な無料検診を予定。後田直聖副理事長は「寺田さんらの取り組みは県内でも初めて。初回受診だけでも全く診断しないよりいい。ホームレスが自分の歯の状態を知り、少しでも治療する意識を持ってほしい」と語る。

 大阪市西成区のNPO法人「釜ケ崎支援機構」は昨春から無料検診を始めた。沖野充彦事務局長は「今後はやはり、症状が深刻になる前に医療機関に通院できるような生活保護のシステムが必要だ」と指摘している。
西日本新聞 - 2007/1/24